福井地方裁判所 昭和38年(わ)50号 判決 1963年6月17日
被告人 内田豊春
昭九・五・二三生 土工
主文
被告人を禁錮三月に処する。
未決勾留日数中二〇日を右本刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は飲酒酩酊すれば狂暴性を発揮し、他人に暴行又は傷害を加える習癖を有するのを自覚する者であるが、かかる者は常に飲酒を抑止又は制限をする等して、他人に危害を加える危険発生を未然に防止すべき注意義務があるのにかかわらず、これを怠り、昭和三八年四月二五日午前一一時三〇分頃より午後一時三〇分頃までの間福井県坂井郡三国町内において漫然と焼酎約三合清酒約四合を飲んだ重大な過失により泥酔の上狂暴性を発揮し、同日午後一時三〇分頃福井県坂井郡三国町宿一の一一番地岩城兼次郎方において、岩城香代子(当時二九年)を手拳で、数回殴打し、更に逃げる同女を追いかけ同家前路上等で殴る蹴る、ねじ倒す等の暴行を加え、その結果、同女に対し治療約一週間を要する左肩胛部左上膊打撲傷を負わせたものである。
(証拠の標目)(略)
(弁護人の主張とこれに対する当裁判所の判断)
弁護人は、被告人は飲酒はつつしむべきではあつたが、この飲酒は刑法第二一一条の重大な過失に価するかは疑問である。被告人は心神耗弱の状態であつたからその後の行動については記憶がないのに違いない旨主張する。
なるほど前掲各証拠によれば、被告人が福井県坂井郡三国町内において焼酎約三合清酒約四合を飲んだ後は酩酊甚しく心神耗弱の状態になつたことは認められるけれども、前掲各証拠によると被告人は飲酒酩酊すれば、判示のごとく狂暴性を発揮し他人に暴行又は傷害を加える習癖を有することを自覚していたものであり、かかる者は常に右の状態に至らぬ程度に飲酒を抑止又は制限をする等して他人に危害を加える危険発生を未然に防止すべき注意義務があるのにこれを怠り、漫然前記の如く焼酎約三合清酒約四合を飲んだ重大な過失によつて泥酔の上狂暴性を発揮し判示の如き傷害を負わせるに至つたものであるから刑法第二一一条にいわゆる「重大ナル過失」に該当するものであることは明らかであり、右の心神耗弱の状態は前示の如き自覚を有しながら前示注意義務を怠つた重大な過失によつて自ら招いたものであるから、本件行為につき刑法第三九条第二項を適用すべきでないことも多言を要しない。
従つて、弁護人の右の主張は採用できがたい。
(法令の適用)
判示事実につき 刑法第二一一条後段前段、罰金等臨時措置法第二条、第三条(禁錮刑を選択)
未決勾留日数算入につき 刑法第二一条
訴訟費用につき 刑事訴訟法第一八一条第一項但書
以上の次第で、主文のとおり判決する。
(裁判官 高沢新七)